文語詩稿 五十篇
宮沢賢治
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)流氷《ザエ》
[#〕:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、底本のページと行数)
(例)雲※[#「さんずい+翁」、第4水準2−79−5、16−6]
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目次
〔いたつきてゆめみなやみし〕
〔水と濃きなだれの風や〕
〔雪うづまきて日は温き〕
〔温く妊みて黒雲の〕
暁
上流
〔打身の床をいできたり〕
〔氷雨虹すれば〕
砲兵観測隊
〔盆地に白く霧よどみ〕
〔たそがれ思量惑くして〕
悍馬〔一〕
〔そのときに酒代つくると〕
〔月の鉛の雲さびに〕
〔こらはみな手を引き交へて〕
〔翔けりゆく冬のフエノール〕
退職技手
〔月のほのほをかたむけて〕
〔萌黄いろなるその頸を〕
〔氷柱かゞやく窓のべに〕
来賓
五輪峠
流氷《ザエ》
〔夜をま青き藺むしろに〕
〔あかつき眠るみどりごを〕
〔きみにならびて野にたてば〕
初七日
〔林の中の柴小屋に〕
〔水霜繁く霧たちて〕
〔あな雪か 屠者のひとりは〕
著者
〔ほのあかり秋のあぎとは〕
〔毘沙門の堂は古びて〕
雪の宿
〔川しろじろとまじはりて〕
風桜
萎花
〔秘事念仏の大師匠〕〔一〕
麻打
驟雨
〔血のいろにゆがめる月は〕
車中〔一〕
村道
〔さき立つ名誉村長は〕
〔僧の妻面膨れたる〕
〔玉蜀黍を播きやめ環にならべ〕
〔うからもて台地の雪に〕
〔残丘《モナドノツク》の雪の上に〕
民間薬
〔吹雪かゞやくなかにして〕
[#改丁]
〔いたつきてゆめみなやみし〕
いたつきてゆめみなやみし、 (冬なりき)誰ともしらず、
そのかみの高麗の軍楽、 うち鼓して過ぎれるありき。
その線の工事了りて、 あるものはみちにさらばひ、
あるものは火をはなつてふ、 かくてまた冬はきたりぬ。
〔水と濃きなだれの風や〕
水と濃きなだれの風や、 むら鳥のあやなすすだき、
アスティルベきらめく露と、 ひるがへる温石の門。
海浸す日より棲みゐて、 たゝかひにやぶれし神の、
二かしら猛きすがたを、 青々と行衛しられず。
〔雪うづまきて日は温き〕
雪うづまきて日は温き、 萱のなかなる荼毘壇に、
県議院殿大居士の、 柩はしづとおろされぬ。
紫綾の大法衣、 逆光線に流れしめ、
六道いまは分るらん、 あるじの徳を讃へけり。
〔温く妊みて黒雲の〕
温く妊みて黒雲の、 野ばらの藪をわたるあり、
あるいはさらにまじらひを、 求むと土を這へるあり。
からす麦かもわが播けば、 ひばりはそらにくるほしく、
ひかりのそこにもそもそと、 上着は肩をやぶるらし。
暁
さきは夜を截るほとゝぎす、 やがてはそらの菫いろ、
小鳥の群をさきだてて、 くわくこう樹々をどよもしぬ。
醒めたるまゝを封介の、 憤りほのかに立ちいでて、
けじろき水のちりあくた、 もだして馬の指竿とりぬ。
上流
秋立つけふをくちなはの、 沼面はるかに泳ぎ居て、
水ぎぼうしはむらさきの、 花穂ひとしくつらねけり。
いくさの噂さしげければ、 蘆刈びともいまさらに、
暗き岩頸 風の雲、 天のけはひをうかゞひぬ。
〔打身の床をいできたり〕
打身の床をいできたり、 箱の火鉢にうちゐれば、
人なき店のひるすぎを、 雪げの川の音すなり。
粉のたばこをひねりつゝ、 見あぐるそらの雨もよひ、
蠣売町のかなたにて、 人らほのかに祝ふらし。
〔氷雨虹すれば〕
氷雨虹すれば、 時計盤たゞに明るく、
病《いたつき》の今朝やまされる、 青き套門を入るなし。
二限わがなさん、 公《きみ》 五時を補ひてんや、
火をあらぬひのきづくりは、 神祝《かむほぎ》にどよもすべけれ。
砲兵観測隊
(ばかばかしきよかの邑は、 よべ屯せしクゾなるを)
ましろき指はうちふるひ、 銀のモナドはひしめきぬ。
(いな見よ東かれらこそ、 古き火薬を燃し了へぬ)
うかべる雲をあざけりて、 ひとびと丘を奔せくだりけり。
〔盆地に白く霧よどみ〕
盆地に白く霧よどみ、 めぐれる山のうら青を、
稲田の水は冽くして、 花はいまだにをさまらぬ。
窓五つなる学校《まなびや》に、 さびしく学童《こ》らをわがまてば、
藻を装へる馬ひきて、 ひとびと木炭を積み出づる。
〔たそがれ思量惑くして〕
たそがれ思量惑くして、 銀屏流沙とも見ゆるころ、
堂は別時の供養とて、 盤鉦木鼓しめやかなり。
頬青き僧ら清らなるテノールなし、 老いし請僧時々に、
バス
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