れしめ、
六道いまは分るらん、 あるじの徳を讃へけり。
〔温く妊みて黒雲の〕
温く妊みて黒雲の、 野ばらの藪をわたるあり、
あるいはさらにまじらひを、 求むと土を這へるあり。
からす麦かもわが播けば、 ひばりはそらにくるほしく、
ひかりのそこにもそもそと、 上着は肩をやぶるらし。
暁
さきは夜を截るほとゝぎす、 やがてはそらの菫いろ、
小鳥の群をさきだてて、 くわくこう樹々をどよもしぬ。
醒めたるまゝを封介の、 憤りほのかに立ちいでて、
けじろき水のちりあくた、 もだして馬の指竿とりぬ。
上流
秋立つけふをくちなはの、 沼面はるかに泳ぎ居て、
水ぎぼうしはむらさきの、 花穂ひとしくつらねけり。
いくさの噂さしげければ、 蘆刈びともいまさらに、
暗き岩頸 風の雲、 天のけはひをうかゞひぬ。
〔打身の床をいできたり〕
打身の床をいできたり、 箱の火鉢にうちゐれば、
人なき店のひるすぎを、 雪げの川の音すなり。
粉のたばこをひねりつゝ、 見あぐるそらの雨もよひ、
蠣売町のかなたにて、 人らほのかに祝ふらし。
〔氷雨虹すれば〕
氷雨虹すれば、 時計盤たゞに明るく、
病《いたつき》の今朝やまされる、 青き套門を入るなし。
二限わがなさん、 公《きみ》 五時を補ひてんや、
火をあらぬひのきづくりは、 神祝《かむほぎ》にどよもすべけれ。
砲兵観測隊
(ばかばかしきよかの邑は、 よべ屯せしクゾなるを)
ましろき指はうちふるひ、 銀のモナドはひしめきぬ。
(いな見よ東かれらこそ、 古き火薬を燃し了へぬ)
うかべる雲をあざけりて、 ひとびと丘を奔せくだりけり。
〔盆地に白く霧よどみ〕
盆地に白く霧よどみ、 めぐれる山のうら青を、
稲田の水は冽くして、 花はいまだにをさまらぬ。
窓五つなる学校《まなびや》に、 さびしく学童《こ》らをわがまてば、
藻を装へる馬ひきて、 ひとびと木炭を積み出づる。
〔たそがれ思量惑くして〕
たそがれ思量惑くして、 銀屏流沙とも見ゆるころ、
堂は別時の供養とて、 盤鉦木鼓しめやかなり。
頬青き僧ら清らなるテノールなし、 老いし請僧時々に、
バス
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