師が、  三秒ひらく大レンズ、
千の瞳のおのおのに、   朝の虹こそ宿りけれ。



  塔中秘事


雪ふかきまぐさのはたけ、  玉蜀黍《きみ》畑|漂雪《フキ》は奔りて、
丘裾の脱穀塔を、      ぼうぼうとひらめき被ふ。

歓喜天そらやよぎりし、   そが青き天《あめ》の窓より、
なにごとか女のわらひ、   栗鼠のごと軋りふるへる。



  〔われのみみちにたゞしきと〕


われのみみちにたゞしきと、  ちちのいかりをあざわらひ、
ははのなげきをさげすみて、  さこそは得つるやまひゆゑ、
こゑはむなしく息あへぎ、   春は来れども日に三たび、
あせうちながしのたうてば、  すがたばかりは録されし、
下品ざんげのさまなせり。



  朝


旱割れそめにし稲沼に、  いまころころと水鳴りて、
待宵草に置く露も、    睡たき風に萎むなり。

鬼げし風の襖子《あをし》着て、   児ら高らかに歌すれば、
遠き讒誣の傷あとも、   緑青いろにひかるなり。



  〔猥れて嘲笑《あざ》めるはた寒き〕


猥れて嘲笑《あざ》めるはた寒き、   凶つのまみをはらはんと
かへさまた経るしろ
前へ 次へ
全34ページ中15ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング