た来た。来たっ。」とみんなは息をこらしました。
ところがその男は別に三郎をつかまえるふうでもなく、みんなの前を通りこして、それから淵《ふち》のすぐ上流の浅瀬を渡ろうとしました。それもすぐに川をわたるでもなく、いかにもわらじや脚絆《きゃはん》のきたなくなったのをそのまま洗うというふうに、もう何べんも行ったり来たりするもんですから、みんなはだんだんこわくなくなりましたが、そのかわり気持ちが悪くなってきました。
そこでとうとう一郎が言いました。
「お、おれ先に叫ぶから、みんなあとから、一二三で叫ぶこだ。いいか。
あんまり川を濁すなよ、
いつでも先生《せんせ》言うでないか。一、二い、三。」
「あんまり川を濁すなよ、
いつでも先生言うでないか。」
その人はびっくりしてこっちを見ましたけれども、何を言ったのかよくわからないというようすでした。そこでみんなはまた言いました。
「あんまり川を濁すなよ、
いつでも先生、言うでないか。」
鼻のとがった人はすぱすぱと、煙草《たばこ》を吸うときのような口つきで言いました。
「この水飲むのか、ここらでは。」
「あんまり川をにごすなよ、
いつでも
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