だい。」三郎は上でくつくつわらいながら言いました。
耕助は木の下をはなれてまた別の藪で葡萄をとりはじめました。もう耕助はじぶんでも持てないくらいあちこちへためていて、口も紫いろになってまるで大きく見えました。
「さあ、このくらい持って戻らないが。」一郎が言いました。
「おら、もっと取ってぐぢゃ。」耕助が言いました。
そのとき耕助はまた頭からつめたいしずくをざあっとかぶりました。耕助はまたびっくりしたように木を見上げましたが今度は三郎は木の上にはいませんでした。
けれども木の向こう側に三郎のねずみいろのひじも見えていましたし、くつくつ笑う声もしましたから、耕助はもうすっかりおこってしまいました。
「わあい又三郎、まだひとさ水掛げだな。」
「風が吹いたんだい。」
みんなはどっと笑いました。
「わあい又三郎、うなそごで木ゆすったけあなあ。」
みんなはどっとまた笑いました。
すると耕助はうらめしそうにしばらくだまって三郎の顔を見ながら、
「うあい又三郎、汝《うな》などあ世界になくてもいいなあ。」
すると三郎はずるそうに笑いました。
「やあ耕助君、失敬したねえ。」
耕助は何かもっ
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