た。
 けれども、たよりのないことは、みちのはばが五寸ぐらいになったり、また三尺ぐらいに変わったり、おまけになんだかぐるっと回っているように思われました。そして、とうとう大きなてっぺんの焼けた栗《くり》の木の前まで来た時、ぼんやり幾つにも別れてしまいました。
 そこはたぶんは、野馬の集まり場所であったでしょう。霧の中に丸い広場のように見えたのです。
 嘉助はがっかりして、黒い道をまた戻りはじめました。知らない草穂が静かにゆらぎ、少し強い風が来る時は、どこかで何かが合図をしてでもいるように、一面の草が、それ来たっとみなからだを伏せて避けました。
 空が光ってキインキインと鳴っています。
 それからすぐ目の前の霧の中に、家の形の大きな黒いものがあらわれました。嘉助はしばらく自分の目を疑って立ちどまっていましたが、やはりどうしても家らしかったので、こわごわもっと近寄って見ますと、それは冷たい大きな黒い岩でした。
 空がくるくるくるっと白く揺らぎ、草がバラッと一度にしずくを払いました。
 (間違って原の向こう側へおりれば、又三郎もおれも、もう死ぬばかりだ。)と嘉助は半分思うように半分つぶやくよ
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