ろとろしただけでした。
 夜があけました。太陽がのぼりました。
 草には露がきらめき花はみな力いっぱい咲きました。
 その東北の方から熔《と》けた銅の汁をからだ中に被《かぶ》ったやうに朝日をいっぱいに浴びて土神がゆっくりゆっくりやって来ました。いかにも分別くささうに腕を拱《こまね》きながらゆっくりゆっくりやって来たのでした。
 樺の木は何だか少し困ったやうに思ひながらそれでも青い葉をきらきらと動かして土神の来る方を向きました。その影は草に落ちてちらちらちらちらゆれました。土神はしづかにやって来て樺の木の前に立ちました。
「樺の木さん。お早う。」
「お早うございます。」
「わしはね、どうも考へて見るとわからんことが沢山ある、なかなかわからんことが多いもんだね。」
「まあ、どんなことでございますの。」
「たとへばだね、草といふものは黒い土から出るのだがなぜかう青いもんだらう。黄や白の花さへ咲くんだ。どうもわからんねえ。」
「それは草の種子が青や白をもってゐるためではないでございませうか。」
「さうだ。まあさう云へばさうだがそれでもやっぱりわからんな。たとへば秋のきのこのやうなものは種子もな
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