土神はむらむらっと怒りました。顔も物凄《ものすご》くまっ黒に変ったのです。美学の本だの望遠鏡だのと、畜生、さあ、どうするか見ろ、といきなり狐のあとを追ひかけました。樺《かば》の木はあわてて枝が一ペんにがたがたふるへ、狐もそのけはひにどうかしたのかと思って何気なくうしろを見ましたら土神がまるで黒くなって嵐《あらし》のやうに追って来るのでした。さあ狐はさっと顔いろを変へ口もまがり風のやうに走って遁《に》げ出しました。
土神はまるでそこら中の草がまっ白な火になって燃えてゐるやうに思ひました。青く光ってゐたそらさへ俄かにガランとまっ暗な穴になってその底では赤い焔《ほのほ》がどうどう音を立てて燃えると思ったのです。
二人はごうごう鳴って汽車のやうに走りました。
「もうおしまひだ、もうおしまひだ、望遠鏡、望遠鏡、望遠鏡」と狐は一心に頭の隅《すみ》のとこで考へながら夢のやうに走ってゐました。
向ふに小さな赤剥《あかは》げの丘がありました。狐はその下の円い穴にはひらうとしてくるっと一つまはりました。それから首を低くしていきなり中へ飛び込まうとして後あしをちらっとあげたときもう土神はうしろからぱっ
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