神がまるで黒くなって嵐《あらし》のように追って来るのでした。さあ狐はさっと顔いろを変え口もまがり風のように走って遁《に》げ出しました。
 土神はまるでそこら中の草がまっ白な火になって燃えているように思いました。青く光っていたそらさえ俄かにガランとまっ暗な穴になってその底では赤い焔《ほのお》がどうどう音を立てて燃えると思ったのです。
 二人はごうごう鳴って汽車のように走りました。
「もうおしまいだ、もうおしまいだ、望遠鏡、望遠鏡、望遠鏡」と狐は一心に頭の隅《すみ》のとこで考えながら夢のように走っていました。
 向うに小さな赤剥《あかは》げの丘《おか》がありました。狐はその下の円い穴にはいろうとしてくるっと一つまわりました。それから首を低くしていきなり中へ飛び込もうとして後あしをちらっとあげたときもう土神はうしろからぱっと飛びかかっていました。と思うと狐はもう土神にからだをねじられて口を尖《とが》らして少し笑ったようになったままぐんにゃりと土神の手の上に首を垂れていたのです。
 土神はいきなり狐を地べたに投げつけてぐちゃぐちゃ四五へん踏《ふ》みつけました。
 それからいきなり狐の穴の中にと
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