のうちとうとう秋になりました。樺《かば》の木はまだまっ青でしたがその辺のいのころぐさはもうすっかり黄金《きん》いろの穂《ほ》を出して風に光りところどころすずらんの実も赤く熟しました。
あるすきとおるように黄金《きん》いろの秋の日土神は大へん上機嫌《じょうきげん》でした。今年の夏からのいろいろなつらい思いが何だかぼうっとみんな立派なもやのようなものに変って頭の上に環になってかかったように思いました。そしてもうあの不思議に意地の悪い性質もどこかへ行ってしまって樺の木なども狐《きつね》と話したいなら話すがいい、両方ともうれしくてはなすのならほんとうにいいことなんだ、今日はそのことを樺の木に云ってやろうと思いながら土神は心も軽く樺の木の方へ歩いて行きました。
樺の木は遠くからそれを見ていました。
そしてやっぱり心配そうにぶるぶるふるえて待ちました。
土神は進んで行って気軽に挨拶《あいさつ》しました。
「樺の木さん。お早う。実にいい天気だな。」
「お早うございます。いいお天気でございます。」
「天道《てんとう》というものはありがたいもんだ。春は赤く夏は白く秋は黄いろく、秋が黄いろになると
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