ことは夢《ゆめ》にもおれの考えるべきことじゃない、けれどもそのおれというものは何だ結局狐にも劣《おと》ったもんじゃないか、一体おれはどうすればいいのだ、土神は胸をかきむしるようにしてもだえました。
「いつかの望遠鏡まだ来ないんですの。」樺の木がまた言いました。
「ええ、いつかの望遠鏡ですか。まだ来ないんです。なかなか来ないです。欧州《おうしゅう》航路は大分混乱してますからね。来たらすぐ持って来てお目にかけますよ。土星の環《わ》なんかそれぁ美しいんですからね。」
土神は俄に両手で耳を押《おさ》えて一目散に北の方へ走りました。だまっていたら自分が何をするかわからないのが恐《おそ》ろしくなったのです。
まるで一目散に走って行きました。息がつづかなくなってばったり倒《たお》れたところは三つ森山の麓《ふもと》でした。
土神は頭の毛をかきむしりながら草をころげまわりました。それから大声で泣きました。その声は時でもない雷《かみなり》のように空へ行って野原中へ聞えたのです。土神は泣いて泣いて疲《つか》れてあけ方ぼんやり自分の祠に戻《もど》りました。
(五)[#「(五)」は縦中横]
そ
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