うりき》の大宝珠《だいほうじゅ》でした。あの十力《じゅうりき》の尊《とうと》い舎利《しゃり》でした。あの十力《じゅうりき》とは誰《だれ》でしょうか。私はやっとその名を聞いただけです。二人《ふたり》もまたその名をやっと聞いただけでした。けれどもこの蒼鷹《あおたか》のように若い二人《ふたり》がつつましく草の上にひざまずき指《ゆび》を膝《ひざ》に組んでいたことはなぜでしょうか。
 さてこの光の底《そこ》のしずかな林の向《む》こうから二人《ふたり》をたずねるけらいたちの声が聞こえて参《まい》りました。
「王子|様《さま》王子|様《さま》。こちらにおいででございますか。こちらにおいででございますか。王子|様《さま》」
 二人《ふたり》は立ちあがりました。
「おおい。ここだよ」と王子は叫《さけ》ぼうとしましたが、その声はかすれていました。二人《ふたり》はかがやく黒い瞳《ひとみ》を、蒼《あお》ぞらから林の方に向《む》けしずかに丘《おか》を下って行きました。
 林の中からけらいたちが出て来てよろこんで笑《わら》ってこっちへ走って参《まい》りました。
 王子も叫《さけ》んで走ろうとしましたが、一本のさる
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