げ]
「ポッシャリ、ポッシャリ、ツイ、ツイ、ツイ。
はやしのなかにふるきりの、
つぶはだんだん大きくなり、
いまはしずくがポタリ」
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霧《きり》がツイツイツイツイ降《ふ》ってきて、あちこちの木からポタリッポタリッと雫《しずく》の音がきこえてきました。
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「ポッシャン、ポッシャン、ツイ、ツイ、ツイ。
はやしのなかにふるきりは、
いまにこあめにかぁわるぞ、
木はぁみんな 青外套《あおがいとう》。
ポッシャン、ポッシャン、ポッシャン、シャン」
[#ここで字下げ終わり]
きりはこあめにかわり、ポッシャンポッシャン降《ふ》ってきました。大臣《だいじん》の子は途方《とほう》に暮《く》れたように目をまんまるにしていました。
「誰《だれ》だろう。今のは。雨を降《ふ》らせたんだね」
大臣《だいじん》の子はぼんやり答えました。
「ええ、王子さま。あなたのきものは草の実《み》でいっぱいですよ」そして王子の黒いびろうどの上着《うわぎ》から、緑色《みどりいろ》のぬすびとはぎの実《み》を一ひらずつとりました。
王子がにわかに叫《さけ》びました。
「誰《だれ》だ、今歌ったものは、ここへ出ろ」
するとおどろいたことは、王子たちの青い大きな帽子《ぼうし》に飾《かざ》ってあった二|羽《わ》の青びかりの蜂雀《はちすずめ》が、ブルルルブルッと飛《と》んで、二人《ふたり》の前に降《お》りました。そして声をそろえて言《い》いました。
「はい。何かご用でございますか」
「今の歌はお前たちか。なぜこんなに雨をふらせたのだ」
蜂雀《はちすずめ》はじょうずな芝笛《しばぶえ》のように叫《さけ》びました。
「それは王子さま。私どもの大事《だいじ》のご主人《しゅじん》さま。私どもは空をながめて歌っただけでございます。そらをながめておりますと、きりがあめにかわるかどうかよくわかったのでございます」
「そしてお前らはどうして歌ったり飛《と》んだりしたのだ」
「はい。ここからは私どもの歌ったり飛《と》んだりできる所《ところ》になっているのでございます。ご案内《あんない》いたしましょう」
雨はポッシャンポッシャン降《ふ》っています。蜂雀《はちすずめ》はそう言《い》いながら、向《む》こうの方へ飛《と》び出しました。せなかや胸《むね》に鋼鉄《こうてつ》のは
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