た霰石《アラゴナイト》でみがきあげられ、その実《み》はまっかなルビーでした。
もしその丘《おか》をつくる黒土をたずねるならば、それは緑青《ろくしょう》か瑠璃《るり》であったにちがいありません。二人《ふたり》はあきれてぼんやりと光の雨に打《う》たれて立ちました。
はちすずめがたびたび宝石《ほうせき》に打たれて落《お》ちそうになりながら、やはりせわしくせわしく飛《と》びめぐって、
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ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ、
降《ふ》らばふれふれひでりあめ
ひかりの雲のたえぬまま。
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と歌いましたので雨の音はひとしお高くなり、そこらはまたひとしきりかがやきわたりました。
それから、はちすずめは、だんだんゆるやかに飛《と》んで、
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ザッザザ、ザザァザ、ザザァザザザァ、
やまばやめやめ、ひでりあめ
そらは みがいた 土耳古玉《トルコだま》。
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と歌いますと、雨がぴたりとやみました。おしまいの二つぶばかりのダイアモンドがそのみがかれた土耳古玉《トルコだま》のそらからきらきらっと光って落《お》ちました。
「ね、このりんどうの花はお父さんの所《ところ》の一等《いっとう》のコップよりも美《うつく》しいんだね。トパァスがいっぱいに盛《も》ってあるよ」
「ええ立派《りっぱ》です」
「うん。僕《ぼく》、このトパァスをはんけちへいっぱい持《も》ってこうか。けれど、トパァスよりはダイアモンドの方がいいかなあ」
王子ははんけちを出してひろげましたが、あまりいちめんきらきらしているので、もうなんだか拾《ひろ》うのがばかげているような気がしました。
その時、風が来て、りんどうの花はツァリンとからだを曲《ま》げて、その天河石《アマゾンストン》の花の盃《さかずき》を下の方に向《む》けましたので、トパァスはツァラツァランとこぼれて下のすずらんの葉《は》に落《お》ち、それからきらきらころがって草の底《そこ》の方へもぐって行きました。
りんどうの花はそれからギギンと鳴って起《お》きあがり、ほっとため息《いき》をして歌いました。
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「トパァスのつゆはツァランツァリルリン、
こぼれてきらめく サング、サンガリン、
ひかりの丘《おおか》に すみながら
なぁにがこんなにかなしか
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