ろ」
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 まっ碧《さお》な空では、はちすずめがツァリル、ツァリル、ツァリルリン、ツァリル、ツァリル、ツァリルリンと鳴いて二人とりんどうの花との上をとびめぐっておりました。
「ほんとうにりんどうの花は何がかなしいんだろうね」王子はトパァスを包《つつ》もうとして、一ぺんひろげたはんけちで顔の汗《あせ》をふきながら言《い》いました。
「さあ私にはわかりません」
「わからないねい。こんなにきれいなんだもの。ね、ごらん、こっちのうめばちそうなどはまるで虹《にじ》のようだよ。むくむく虹《にじ》が湧《わ》いてるようだよ。ああそうだ、ダイアモンドの露《つゆ》が一つぶはいってるんだよ」
 ほんとうにそのうめばちそうは、ぷりりぷりりふるえていましたので、その花の中の一つぶのダイアモンドは、まるで叫《さけ》び出すくらいに橙《だいだい》や緑《みどり》に美《うつく》しくかがやき、うめばちそうの花びらにチカチカ映《うつ》って言《い》いようもなく立派《りっぱ》でした。
 その時ちょうど風が来ましたので、うめばちそうはからだを少し曲《ま》げてパラリとダイアモンドの露《つゆ》をこぼしました。露《つゆ》はちくちくっとおしまいの青光をあげ碧玉《へきぎょく》の葉《は》の底《そこ》に沈《しず》んで行きました。
 うめばちそうはブリリンと起《お》きあがってもう一ぺんサッサッと光りました。金剛石《こんごうせき》の強い光の粉《こな》がまだはなびらに残《のこ》ってでもいたのでしょうか。そして空のはちすずめのめぐりも叫《さけ》びも、にわかにはげしくはげしくなりました。うめばちそうはまるで花びらも萼《がく》もはねとばすばかり高く鋭《するど》く叫《さけ》びました。

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「きらめきのゆきき
 ひかりのめぐみ
 にじはゆらぎ
 陽《ひ》は織《お》れど
 かなし。

 青ぞらはふるい
 ひかりはくだけ
 風のきしり
 陽《ひ》は織《お》れど
 かなし」
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 野ばらの木が赤い実《み》から水晶《すいしょう》の雫《しずく》をポトポトこぼしながらしずかに歌いました。

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「にじはなみだち
 きらめきは織《お》る
 ひかりのおかの
 このさびしさ。

 こおりのそこの
 めくらのさかな
 ひかりのおかの
 このさびしさ。

 たそがれぐもの

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