ろを見てゐましたしそれに林の前でぴたっと立ちどまったらしいのでした。そしてしばらく何かしてゐました。私は萱の葉の混《こ》んだ所から無理にのぞいて見ましたら二人ともメリケン粉の袋のやうなものを小わきにかゝへてその口の結び目を立ったまゝ解いてゐるのでした。
「この辺でよからうな。」一人が云ひました。
「うん、いゝだらう。」も一人が答へたと思ふとバラッバラッと音がしました。たしかに何か撒《ま》いたのです。私は何を撒いたか見たくて命もいらないやうに思ひました。こはいことはやっぱりこはかったのですけれども。
 役人どもはだんだん向ふの方へはんの木の間を歩きながらずゐぶんしばらく撒いてゐましたが俄かに一人が云ひました。
「おい、失敗だよ。失敗だ。ひどくしくじった。君の袋にはまだ沢山あるか。」
「どうして? 林がちがったかい。」も一人が愕《おどろ》いてたづねました。
「だって君、これは何といふ木かしらんが栗《くり》の木ぢゃないぜ、途方もないとこに栗の実が落ちてちゃ、ばれるよ。」
 も一人が落ちついた声で答へました。
「ふん、そんなことは心配ないよ、はじめから僕《ぼく》は気がついてるんだ。そんなことま
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