で何のかんの云ふもんか。どっちから来たらうって云ったら風で飛ばされて参りましたでせうて云やいゝや。」
「そんなわけにも行くまいぜ。困ったな、どこか栗《くり》の木の下へまかう。あ、うまい、こいつはうまい。栗の木だ。こいつから落ちたといふことにすりゃいゝな。あゝ助かった。おい、こゝへ沢山まいて置かう。」
「もちろんだよ。」
それからばらっばらっと栗の実が栗の木の幹にぶっつかったりはね落ちたりする音がしばらくしました。私どもは思はず顔を見合せました。もう大丈夫役人どもは私たちを殺しに来たのでもなく、私どもの居ることさへも知らないことがわかったのです。まるで世界が明るくなったやうに思ひました。
遁《に》げるならいまのうちだと私たちは二人一緒に思ったのです。その証拠には私たちは一寸《ちょっと》眼《め》を見合せましたらもう立ちあがってゐました。それからそおっと萱《かや》をわけて林のうしろの方へ出ようとしました。すると早くも役人の一人が叫んだのです。
「誰《たれ》か居るぞ。入るなって云ったのに。」
「誰だ。」も一人が叫びました。私たちはすっかり失策《しくじ》ってしまったのです。ほんたうにばかなこ
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