私どもはそのはんのきの中にかくれてゐようと思ったのです。
「さうしよう。早く行かないと見つかるぜ。」
「さあ走ってかう。」
 私どもはそこでまるで一目散にその野原の一本みちを走りました。あんまり苦しくて息がつけなくなるととまって空を向いてあるき又うしろを見てはかけ出し、走って走ってたうとう寺林についたのです。そこでみちからはなれてはんのきの中にかくれました。けれども虫がしんしん鳴き時々鳥が百|匹《ぴき》も一かたまりになってざあと通るばかり、一向人も来ないやうでしたからだんだん私たちは恐《こは》くなくなってはんのきの下の萱《かや》をがさがさわけて初茸《はつたけ》[#「初茸」はママ]をさがしはじめました。いつものやうにたくさん見附かりましたから私はいつか長官のことも忘れてしきりにとって居《を》りました。
 すると俄《には》かに慶次郎が私のところにやって来てしがみつきました。まるで私の耳のそばでそっと云ったのです。
「来たよ、来たよ。たうとう来たよ。そらね。」
 私は萱の間からすかすやうにして私どもの来た方を見ました。向ふから二人の役人が大急ぎで路《みち》をやって来るのです。それも何だかみ
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