とをしたと私どもは思ひました。
 役人はもうがさがさと向ふの萱の中から出て来ました。そのとき林の中は黄金《きん》いろの日光で点々になってゐました。
「おい、誰だ、お前たちはどこから入って来た。」紺服の方の人が私どもに云ひました。
 私どもははじめまるで死んだやうになってゐましたがだんだん近くなって見ますとその役人の顔はまっ赤でまるで湯気が出るばかり殊に鼻からはぷつぷつ油汗が出てゐましたので何だか急にこはくなくなりました。
「あっちからです。」私はみちの方を指しました。するとその役人はまじめな風で云ひました。
「あゝ、あっちにもみちがあるのか。そっちへも制札《せいさつ》をして置かなかったのは失敗だった。ねえ、君。」と云ひながらあとからしなびたメリケン粉の袋をかついで来た黒服に云ひました。
「うん、やっぱり子供らは入ってるねえ、しかし構はんさ。この林からさへ追ひ出しとけぁいゝんだ。おい。お前たちね、今日はここへ非常なえらいお方が入らっしゃるんだから此処《ここ》に居てはいけないよ。野原に居たかったら居てもいゝからずうっと向ふの方へ行ってしまってここから見えないやうにするんだぞ。声をたててもいけないぞ。」
 私たちは顔を見合せました。そしてだまって籠《かご》を提げて向ふへ行かうとしました。
 慶次郎はぽいっとおじぎをしましたから私もしました。紺服の役人はメリケン粉のからふくろを手に団子のやうに捲《ま》きつけてゐましたが少し屈《かが》むやうにしました。
 私たちは行かうとしました。すると黒服の役人がうしろからいきなり云ひました。
「おいおい。おまへたちはこゝでその蕈《きのこ》をとったのか。」
 又かと私はぎくっとしました。けれどもこの時もどうしても「いゝえ。」と云へませんでした。慶次郎がかすれたやうな声で「はあ。」と答へたのです。すると役人は二人とも近くへ来て籠《かご》の中をのぞきました。
「まだあるだらうな。どこかこゝらで、沢山ある所をさがして呉《く》れないか。ごほうびをあげるから。」
 私たちはすっかり面白くなりました。
「まだ沢山ありますよ。さがしてあげませう。」私が云ひましたら紺服の役人があわてて手をふって叫びました。
「いやいや、とってしまっちゃいけない、たゞある場所をさがして教へてさへ呉れればいゝんだ。さがしてごらん。」
 私と慶次郎とはまるで電気にかかったやうに
前へ 次へ
全6ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング