萱《かや》をわけてあるきました。そして私はすぐ初蕈《はつたけ》の三つならんでる所を見附けました。
「ありました。」叫んだのです。
「さうか。」役人たちは来てのぞきました。
「何だ、ただ三つぢゃないか。長官は六人もご家族をつれていらっしゃるんだ。三つぢゃ仕方ない、お一人十づつとしても六十無くちゃだめだ。」
「六十ぐらゐ大丈夫あります。」慶次郎が向ふで袖《そで》で汗を拭《ふ》きながら云ひました。
「いや、あちこちちらばったんぢゃさがし出せない。二とこぐらゐに集まってなくちゃ。」
「初蕈はそんなに集まってないんです。」私も勢《いきほひ》がついて言ひました。
「ふうん、そんならかまはないからおまへたちのとった蕈をそこらへ立てて置かうかな。」
「それでいゝさ。」黒服の方が薄いひげをひねりながら答へました。
「おい、お前たちの籠《かご》の蕈をみんなよこせ。あとでごほうびはやるからな。」紺服は笑って云ひました。私たちはだまって籠を出したのです。二人はしゃがんで籠を倒《さかさま》にして数を数へてから小さいのはみんな又籠に戻しました。
「丁度いゝよ、七十ある。こいつをこゝらへ立ててかう。」
紺服の人はきのこを草の間に立てようとしましたがすぐ傾いてしまひました。
「あゝ、萱で串《くし》にしておけばいゝよ。そら、こんな工合《ぐあひ》に。」黒服は云ひながら萱の穂を一寸ばかりにちぎって地面に刺してその上にきのこの脚をまっすぐに刺して立てました。
「うまい、うまい、丁度いゝ、おい、おまへたち、萱の穂をこれ位の長さにちぎって呉れ。」
私たちはたうとう笑ひました。役人も笑ってゐました。間もなく役人たちは私たちのやった萱《かや》の穂をすっかりその辺に植ゑて上にみんな蕈《きのこ》をつき刺しました。実に見事にはなりましたが又をかしかったのです。第一萱が倒れてゐましたしきのこのちぎれた脚も見えてゐました。私どもは笑って見てゐますと黒服の役人がむづかしい顔をして云ひました。
「さあ、お前たちもう行って呉《く》れ、この袋はやるよ。」
「うん、さうだ、そら、ごほうびだよ。」二人はメリケン粉の袋を私たちに投げました。
そんなもの要《い》らないと私たちは思ひましたが役人が又まじめになって恐《こは》くなりましたからだまって受け取りました。そして林を出ました。林を出るときちょっとふりかへって見ましたら二人がまっす
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