と。
 爾迦夷《るかい》、則《すなわ》ち両翼《りょうよく》を開張し、虔《うやうや》しく頸《くび》を垂れて座を離《はな》れ、低く飛揚《ひよう》して疾翔大力を讃嘆《さんたん》すること三匝《さんそう》にして、徐《おもむろ》に座に復し、拝跪《はいき》して唯《ただ》願うらく、疾翔大力、疾翔大力、ただ我|等《ら》が為《ため》にこれを説き給《たま》え。ただ我等が為にこれを説き給えと。
 疾翔大力|微笑《みしょう》して、金色《こんじき》の円光を以《もっ》て頭《こうべ》に被《かぶ》れるに、その光|遍《あまね》く一座を照し、諸鳥|歓喜《かんぎ》充満《じゅうまん》せり。則ち説いて曰く、
 汝等《なんじら》審《つまびらか》に諸の悪業を作る。或《あるい》は夜陰《やいん》を以て小禽《しょうきん》の家に至る。時に小禽|既《すで》に終日日光に浴し、歌唄《かばい》跳躍《ちょうやく》して疲労をなし、唯唯《ただただ》甘美《かんび》の睡眠《すいみん》中にあり、汝等飛躍してこれを握《つか》む。利爪《りそう》深くその身に入り、諸の小禽痛苦又声を発するなし。則ちこれを裂《さ》きて擅《ほしいまま》に※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]食《たんじき》す。或は沼田《しょうでん》に至り螺蛤《らこう》を啄《ついば》む。螺蛤|軟泥《なんでい》中にあり、心|柔※[#「車+(而/大)」、第3水準1−92−46]《にゅうなん》にして唯温水を憶《おも》う。時に俄《にわか》に身空中にあり、或は直ちに身を破る、悶乱《もんらん》声を絶す。汝等これを※[#「口+敢」、第3水準1−15−19]食《たんじき》するに、又|懺悔《ざんげ》の念あることなし。
 斯《かく》の如《ごと》きの諸の悪業、挙げて数うるなし。
 悪業を以ての故《ゆえ》に、更《さら》に又諸の悪業を作る。継起《けいき》して遂《つい》に竟《おわ》ることなし。昼は則ち日光を懼《おそ》れ、又人|及《および》諸の強鳥を恐《おそ》る。心|暫《しば》らくも安らかなることなし。一度《ひとたび》梟身《きょうしん》を尽《つく》して、又|新《あらた》に梟身を得、審《つまびらか》に諸の患難《かんなん》を被《こうむ》りて、又尽くることなし。
 で前の晩は、諸鳥歓喜充満せりまで、文の如くに講じたが、此《こ》の席はその次じゃ。則ち説いて曰くと、これは疾翔大力さまが、爾迦夷《るかい》上人《しょうにん》の
前へ 次へ
全22ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング