んてんぢく》の、ある家《や》の棟《むね》に棲《す》まはれた。ある年非常な饑饉《ききん》が来て、米もとれねば木の実もならず、草さへ枯れたことがござった。鳥もけものも、みな飢ゑ死にぢゃ人もばたばた倒れたぢゃ。もう炎天と飢渇《きかつ》の為《ため》に人にも鳥にも、親兄弟の見さかひなく、この世からなる餓鬼道《がきだう》ぢゃ。その時疾翔大力は、まだ力ない雀でござらしゃったなれど、つくづくこれをご覧じて、世の浅間《あさま》しさはかなさに、泪《なみだ》をながしていらしゃれた。中にもその家の親子二人、子はまだ六つになるならず、母親とてもその大飢渇《だいきかつ》に、どこから食《じき》を得るでなし、もうあすあすに二人もろとも見す見す餓死を待ったのぢゃ。この時、疾翔大力《しっしょうたいりき》は、上よりこれをながめられあまりのことにしばしは途方にくれなされたが、日ごろの恩を報ずるは、たゞこの時と勇みたち、つかれた羽をうちのばし、はるか遠くの林まで、親子の食《じき》をたづねたげな。一念天に届いたか、ある大林のその中に、名さへも知らぬ木なれども、色もにほひもいと高き、十の木の実をお見附けなされたぢゃ。さればもはや疾
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