よ。それも鳥に生れてたゞやすやすと生きるというても、まことはたゞの一日とても、たゞごとではないのぞよ、こちらが一日生きるには、雀《すずめ》やつぐみや、たにしやみゝずが、十や二十も殺されねばならぬ、たゞ今のご文にあらしゃるとほりぢゃ。こゝの道理をよく聴きわけて、必らずうかうか短い一生をあだにすごすではないぞよ。これからご文に入るぢゃ。子供らも、こらへて睡るではないぞ。よしか。」
林の中は又しいんとなりました。さっきの汽車が、まだ遠くの遠くの方で鳴ってゐます。
「爾《そ》の時に疾翔大力《しっしょうたいりき》、爾迦夷《るかゐ》に告げて曰《いは》くと、まづ疾翔大力とは、いかなるお方ぢゃか、それを話さなければならんぢゃ。
疾翔大力と申しあげるは、施身大菩薩《せしんだいぼさつ》のことぢゃ。もと鳥の中から菩提心《ぼだいしん》を発して、発願《ほつぐわん》した大力の菩薩ぢゃ。疾翔とは早く飛ぶといふことぢゃ。捨身菩薩がもとの鳥の形に身をなして、空をお飛びになるときは、一揚というて、一はゞたきに、六千|由旬《ゆじゅん》を行きなさる。そのいはれより疾翔と申さるゝ、大力といふは、お徳によって、たとへ火の中水
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