《ところ》を吹いてゐた風の音だったかも知れません。なぜなら、星がかげろふの向ふ側にでもあるやうに、少しゆれたり明るくなったり暗くなったりしてゐましたから。
獅子鼻《ししはな》の上の松林には今夜も梟《ふくろふ》の群が集まりました。今夜は穂吉が来てゐました。来てはゐましたが一昨日《をととひ》の晩の処にでなしに、おぢいさんのとまる処よりももっと高いところで小さな枝の二本行きちがひ、それからもっと小さな枝が四五本出て、一寸《ちょっと》盃《さかづき》のやうな形になった処へ、どこから持って来たか藁屑《わらくづ》や髪の毛などを敷いて臨時に巣がつくられてゐました。その中に穂吉が半分横になって、じっと目をつぶってゐました。梟のお母さんと二人の兄弟とが穂吉のまはりに座って穂吉のからだを支へるやうにしてゐました。林中のふくろふは、今夜は一人も泣いてはゐませんでしたが怒ってゐることはみんな、昨夜処《ゆふべどころ》ではありませんでした。
「傷みはどうぢゃ。いくらか薄らいだかの。」
あの坊さんの梟がいつもの高い処からやさしく訊《たづ》ねました。穂吉は何か云はうとしたやうでしたが、たゞ眼がパチパチしたばかり、お
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