よ。みなの衆、よくよく心にしみて聞いて下され。
 次のご文は、時に小禽|既《すで》に終日日光に浴し、歌唄《かばい》跳躍して、疲労をなし、唯々《ただただ》甘美の睡眠中にあり。他人事《ひとごと》ではないぞよ。どうぢゃ、今朝も今朝とて穂吉どの処《ところ》を替へてこの身の上ぢゃ、」
 説教の坊さんの声が、俄《にはか》におろおろして変りました。穂吉のお母さんの梟《ふくろふ》はまるで帛《きぬ》を裂くやうに泣き出し、一座の女の梟は、たちまちそれに従《つ》いて泣きました。
 それから男の梟も泣きました。林の中はたゞむせび泣く声ばかり、風も出て来て、木はみなぐらぐらゆれましたが、仲々|誰《たれ》も泣きやみませんでした。星はだんだんめぐり、赤い火星ももう西ぞらに入りました。
 梟の坊さんはしばらくゴホゴホ咳嗽《せき》をしてゐましたが、やっと心を取り直して、又講義をつゞけました。
「みなの衆、まづ試《ため》しに、自分がみそさざいにでもなったと考へてご覧《らう》じ。な。天道《てんとう》さまが、東の空へ金色《こんじき》の矢を射なさるぢゃ、林樹は青く枝は揺るゝ、楽しく歌をばうたふのぢゃ、仲よくあうた友だちと、枝か
前へ 次へ
全42ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング