く滑るやうに向ふへ飛んで行きました。梟の坊さんがそれをじっと見送ってゐましたが、俄《には》かにからだをりんとして言ひました。
「みなの衆。いつまで泣いてもはてないぢゃ。ここの世界は苦界《くがい》といふ、又忍土とも名づけるぢゃ。みんなせつないことばかり、涙の乾くひまはないのぢゃ。たゞこの上は、われらと衆生と、早くこの苦を離れる道を知るのが肝要ぢゃ。この因縁でみなの衆も、よくよく心をひそめて聞きなされ。たゞ一人でも穂吉のことから、まことに菩提《ぼだい》の心を発すなれば、穂吉の功徳《くどく》又この座のみなの衆の功徳、かぎりもあらぬことなれば、必らずとくと聴聞《ちゃうもん》なされや。昨夜の続きを講じます。
 爾《そ》の時に疾翔大力《しっしょうたいりき》、爾迦夷《るかゐ》に告げて曰《いは》く、諦《あきらか》に聴け、諦に聴け。善《よ》く之《これ》を思念せよ。我今|汝《なんぢ》に、梟鵄《けうし》諸《もろもろ》の悪禽《あくきん》、離苦《りく》解脱《げだつ》の道を述べんと。
 爾迦夷《るかゐ》、則《すなは》ち両翼を開張し、虔《うやうや》しく頸《くび》を垂れて座を離れ、低く飛揚して疾翔大力を讃嘆すること三
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