て
「ふん、実にしずかだ、夜あけまでまだ三時間半あるな。」
つぶやきながら小屋に入った。
ぼんやりたき火をながめながら
わらの上に横になり
手を頭の上で組み
うとうとうとうとした。
突然《とつぜん》頭の下のあたりで
小さな声で物を云い合ってるのが聞えた。
「そんなに肱《ひじ》を張らないでお呉《く》れ。おれの横の腹に病気が起るじゃないか。」
「おや、変なことを云うね、一体いつ僕《ぼく》が肱を張ったね」
「そんなに張っているじゃないか、ほんとうにお前この頃《ごろ》湿気《しっけ》を吸ったせいかひどくのさばり出して来たね」
「おやそれは私のことだろうか。お前のことじゃなかろうかね、お前もこの頃は頭でみりみり私を押《お》しつけようとするよ。」
大学士は眼《め》を大きく開き
起き上ってその辺を見まわしたが
誰《た》れも居《お》らない様だった。
声はだんだん高くなる。
「何がひどいんだよ。お前こそこの頃はすこしばかり風を呑《の》んだせいか、まるで人が変ったように意地悪になったね。」
「はてね、少しぐらい僕が手足をのばしたってそれをとやこうお前が云うのかい。十万二千年|昔《むかし》のことを考えてごらん
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