そこで楢ノ木大学士は、
にやっと笑って葉巻をとった。
「うん、探してやろう。蛋白石のいいのなら、流紋玻璃《りゅうもんはり》を探せばいい。探してやろう。僕《ぼく》は実際、一ぺんさがしに出かけたら、きっともう足が宝石のある所へ向くんだよ。そして宝石のある山へ行くと、奇体《きたい》に足が動かない。直覚だねえ。いや、それだから、却《かえ》って困ることもあるよ。たとえば僕は一千九百十九年の七月に、アメリカのジャイアントアーム会社の依嘱《いしょく》を受けて、紅宝玉《ルビー》を探しにビルマへ行ったがね、やっぱりいつか足は紅宝玉《ルビー》の山へ向く。それからちゃんと見附《みつ》かって、帰ろうとしてもなかなか足があがらない。つまり僕と宝石には、一種の不思議な引力が働いている、深く埋《うず》まった紅宝玉《ルビー》どもの、日光の中へ出たいというその熱心が、多分は僕の足の神経に感ずるのだろうね。その時も実際困ったよ。山から下りるのに、十一時間もかかったよ。けれどもそれがいまのバララゲの紅宝玉坑《ルビーこう》さ。」
「ははあ、そいつはどうもとんだご災難でございました。しかしいかがでございましょう。こんども多分は
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