緒に気違ひにでもなりさうなのをじっとこらへて来たではありませんか。」
「さうです、それは全くその通りです。けれども苦しい間は人をたのんで楽になると人をそねむのはぜんたいいゝ事なんでせうか。」
「何だって。」
「ちょっと、ちょっと、ちょっとお待ちなさい。ね。そして今やっとお日さまを見たでせう。そのお日さまも僕たちが前に土の底でコングロメレートから聞いたとは大へんなちがひではありませんか。」
「えゝ、それはもうちがってます。コングロメレートのはなしではお日さまはまっかで空は茶いろなもんだと云ってゐましたが今見るとお日さまはまっ白で空はまっ青です。あの人はうそつきでしたね。」
双子の声が又聞えた。
「さあ、しかしあのコングロメレートといふ方は前にたゞの砂利だったころはほんたうに空が茶いろだったかも知れませんね。」
「さうでせうか。とにかくうそをつくこととひとの恩を仇《あだ》でかへすのとはどっちも悪いことですね。」
「何だと、僕のことを云ってるのかい。よしさあ、僕も覚悟があるぞ。決闘をしろ、決闘を。」
「まあ、お待ちなさい。ね、あのお日さまを見たときのうれしかったこと。どんなに僕らは叫んだでせ
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