れから顔を洗ったことのない狸が、一しょに洞熊学校を卒業しました。三人は上べは大へん仲よさうに、洞熊先生を呼んで謝恩会といふことをしたりこんどはじぶんらの離別会といふことをやったりしましたけれども、お互にみな腹のなかでは、へん、あいつらに何ができるもんか、これから誰《たれ》がいちばん大きくえらくなるか見てゐろと、そのことばかり考へてをりました。さて会も済んで三人はめいめいじぶんのうちに帰っていよいよ習ったことをじぶんでほんたうにやることになりました。洞熊先生の方もこんどはどぶ鼠《ねずみ》をつかまへて学校に入れようと毎日追ひかけて居《を》りました。
 ちゃうどそのときはかたくりの花の咲くころで、たくさんのたくさんの眼の碧《あを》い蜂《はち》の仲間が、日光のなかをぶんぶんぶんぶん飛び交ひながら、一つ一つの小さな桃いろの花に挨拶《あいさつ》して蜜《みつ》や香料を貰《もら》ったり、そのお礼に黄金《きん》いろをした円い花粉をほかの花のところへ運んでやったり、あるいは新らしい木の芽からいらなくなった蝋《らふ》を集めて六角形の巣を築いたりもういそがしくにぎやかな春の入口になってゐました。

     
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