一、蜘蛛はどうしたか。

 蜘蛛は会の済んだ晩方じぶんのうちの森の入口の楢《なら》の木に帰って来ました。
 ところが蜘蛛はもう洞熊学校でお金をみんなつかってゐましたからもうなにひとつもってゐませんでした。そこでひもじいのを我慢して、ぼんやりしたお月様の光で網をかけはじめた。
 あんまりひもじくてからだの中にはもう糸もない位であった。けれども蜘蛛は
「いまに見ろ、いまに見ろ」と云《い》ひながら、一生けん命糸をたぐり出して、やっと小さな二銭銅貨位の網をかけた。そして枝のかげにかくれてひとばん眼をひからして網をのぞいてゐた。
 夜あけごろ、遠くから小さなこどものあぶがくうんとうなってやって来て網につきあたった。けれどもあんまりひもじいときかけた網なので、糸に少しもねばりがなくて、子どものあぶはすぐ糸を切って飛んで行かうとした。
 蜘蛛《くも》はまるできちがひのやうに、枝のかげから駆け出してむんずとあぶに食ひついた。
 あぶの子どもは「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」と哀れな声で泣いたけれども、蜘蛛は物も云はずに頭から羽からあしまで、みんな食ってしまった。そしてほっと息をついてし
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