はなさないなら一緒に行かうと相談しました。すると慶次郎はまるでよろこんで言ひました。
「楢渡《ならわたり》なら方向はちゃんとわかってゐるよ。あすこでしばらく木炭《すみ》を焼いてゐたのだから方角はちゃんとわかってゐる。行かう。」
私はもう占めたと思ひました。
次の朝早く私どもは今度は大きな籠《かご》を持ってでかけたのです。実際それを一ぱいとることを考へると胸がどかどかするのでした。
ところがその日は朝も東がまっ赤でどうも雨になりさうでしたが私たちが柏《かしは》の林に入ったころはずゐぶん雲がひくくてそれにぎらぎら光って柏の葉も暗く見え風もカサカサ云って大へん気味が悪くなりました。
それでも私たちはずんずん登って行きました。慶次郎は時々向ふをすかすやうに見て
「大丈夫だよ。もうすぐだよ。」と云ふのでした。実際山を歩くことなどは私よりも慶次郎の方がずうっとなれてゐて上手でした。
ところがうまいことはいきなり私どもははぎぼだしに出《で》っ会《く》はしました。そこはたしかに去年の処ではなかったのです。ですから私は
「おい、こゝは新らしいところだよ。もう僕らはきのこ山を二つ持ったよ。」と言
前へ
次へ
全11ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング