ったのです。すると慶次郎も顔を赤くしてよろこんで眼《め》や鼻や一緒になってどうしてもそれが直らないといふ風でした。
「さあ、取ってかう。」私は云ひました。そして白いのばかりえらんで二人ともせっせと集めました。昨年のことなどはすっかり途中で話して来たのです。
 間もなく籠《かご》が一ぱいになりました。丁度そのときさっきからどうしても降りさうに見えた空から雨つぶがポツリポツリとやって来ました。
「さあぬれるよ。」私は言ひました。
「どうせずぶぬれだ。」慶次郎も云ひました。
 雨つぶはだんだん数が増して来てまもなくザアッとやって来ました。楢《なら》の葉はパチパチ鳴り雫《しづく》の音もポタッポタッと聞えて来たのです。私と慶次郎とはだまって立ってぬれました。それでもうれしかったのです。
 ところが雨はまもなくぱたっとやみました。五六つぶを名残《なご》りに落してすばやく引きあげて行ったといふ風でした。そして陽《ひ》がさっと落ちて来ました。見上げますと白い雲のきれ間から大きな光る太陽が走って出てゐたのです。私どもは思はず歓呼の声をあげました。楢や柏《かしは》の葉もきらきら光ったのです。
「おい、こゝ
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