るやうに思ひました。そんなにその崖が恐ろしく見えたのです。
「下の方ものぞかしてやらうか。」理助は云ひながらそろそろと私を崖のはじにつき出しました。私はちらっと下を見ましたがもうくるくるしてしまひました。
「どうだ。こはいだらう。ひとりで来ちゃきっとこゝへ落ちるから来年でもいつでもひとりで来ちゃいけないぞ。ひとりで来たら承知しないぞ。第一みちがわかるまい。」
 理助は私の腕をはなして大へん意地の悪い顔つきになって斯《か》う云ひました。
「うん、わからない。」私はぼんやり答へました。
 すると理助は笑って戻りました。
 それから青ぞらを向いて高く歌をどなりました。
 さっきの蕈を置いた処へ来ると理助はどっかり足を投げ出して座って炭俵をしょひました。それから胸で両方から繩《なは》を結んで言ひました。
「おい、起して呉《く》れ。」
 私はもうふところへ一杯にきのこをつめ羽織を風呂敷包みのやうにして持って待ってゐましたが斯《か》う言はれたので仕方なく包みを置いてうしろから理助の俵を押してやりました。理助は起きあがって嬉《うれ》しさうに笑って野原の方へ下りはじめました。私も包みを持ってうれしくて
前へ 次へ
全11ページ中5ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング