俵の中へ投げ込んでゐるのです。私はそこでしばらく呆《あき》れて見てゐました。
「何をぼんやりしてるんだ。早くとれとれ。」理助が云ひました。
「うん。けれどお前はなぜ白いのばかりとるの。」私がききました。
「おれのは漬物《つけもの》だよ。お前のうちぢゃ蕈《きのこ》の漬物なんか喰べないだらうから茶いろのを持って行った方がいゝやな。煮て食ふんだらうから。」
 私はなるほどと思ひましたので少し理助を気の毒なやうな気もしながら茶いろのをたくさんとりました。羽織に包まれないやうになってもまだとりました。
 日がてって秋でもなかなか暑いのでした。
 間もなく蕈も大ていなくなり理助は炭俵一ぱいに詰めたのをゆるく両手で押すやうにしてそれから羊歯《しだ》の葉を五六枚のせて繩《なは》で上をからげました。
「さあ戻るぞ。谷を見て来るかな。」理助は汗をふきながら右の方へ行きました。私もついて行きました。しばらくすると理助はぴたっととまりました。それから私をふり向いて私の腕を押へてしまひました。
「さあ、見ろ、どうだ。」
 私は向ふを見ました。あのまっ赤な火のやうな崖《がけ》だったのです。私はまるで頭がしいんとな
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