それを両手で起して、川へバチャンと投げました。石はすぐ沈《しず》んで水の底へ行き、ことにまっ白に少し青白く見えました。私はそれが又何とも云えず悲しいように思ったのです。
その時でした。俄かにそらがやかましくなり、見上げましたら一むれの百舌が私たちの頭の上を過ぎていました。百舌はたしかに私たちを恐れたらしく、一段高く飛びあがって、それから楊を二本越えて、向うの三本目の楊を通るとき、又何かに引っぱられたように、いきなりその中に入ってしまいました。
けれどももう、私も慶次郎も、その木の中でもずが死ぬとは思いませんでした。慶次郎は本気に石を投げたのでしたが、百舌は一ぺんにとびあがりました。向うの低い楊の木からも、やかましく鳴いてさっきの鳥がとび立ちました。私はほんとうにさびしくなってもう帰ろうと思いました。
「どこかに、けれど、ほんとうの木はあるよ。」
慶次郎は云いました。私もどこかにあるとは思いましたが、この川には決してないと思ったのです。
「外《ほか》へ行って見よう。野原のうち、どこか外の処《とこ》だよ。外へ行って見よう。」私は云いました。慶次郎もだまってあるき出し、私たちは河原から
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