を行きましたが、俄かに向うの五本目の大きな楊の上まで行くと、本当に磁石に吸い込まれたように、一ぺんにその中に落ち込みました。みんなその梢《こずえ》の中に入ってしばらくがあがあがあがあ鳴いていましたが、まもなくしいんとなってしまいました。
私は実際変な気がしてしまいました。なぜならもずがかたまって飛んで行って、木におりることは、決してめずらしいことではなかったのですが、今日のはあんまり俄かに落ちたし事によると、あの馬を引いた人のはなしの通り木に吸い込まれたのかも知れないというのですから、まったくなんだか本当のような偽《うそ》のような変な気がして仕方なかったのです。
慶次郎もそうなようでした。水の中に立ったまま、しばらく考えていましたが、気がついたように云いました。
「今のは吸い込まれたのだろうか。」
「そうかも知れないよ。」どうだかと思いながら私は生返事《なまへんじ》をしました。
「吸い込まれたのだねえ、だってあんまり急に落ちた。」慶次郎も無理にそうきめたいと云う風でした。
「もう死んだのかも知れないよ。」私は又どうもそうでもないと思いながら云いました。
「死んだのだねえ、死ぬ前苦し
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