朝に就ての童話的構図
宮沢賢治
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)苔《こけ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)第百二十八|聯隊《れんたい》
−−
苔《こけ》いちめんに、霧がぽしやぽしや降つて、蟻《あり》の歩哨《ほせう》は、鉄の帽子のひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯《しだ》の森の前をあちこち行つたり来たりしてゐます。
向ふからぷるぷるぷるぷる一ぴきの蟻の兵隊が走つて来ます。
「停《と》まれ、誰《たれ》かツ」
「第百二十八|聯隊《れんたい》の伝令!」
「どこへ行くか」
「第五十聯隊 聯隊本部」
歩哨はスナイドル式の銃剣を、向ふの胸に斜めにつきつけたまま、その眼の光りやうや顎《あご》のかたち、それから上着の袖《そで》の模様や靴の工合《ぐあひ》、いちいち詳しく調べます。
「よし、通れ」
伝令はいそがしく羊歯の森のなかへ入つて行きました。
霧の粒はだんだん小さく小さくなつて、いまはもううすい乳いろのけむりに変り、草や木の水を吸ひあげる音は、あつちにもこつちにも忙しく聞え出しました。さすがの歩哨もたうとう睡
次へ
全4ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング