《ねむ》さにふらつとします。
 二|疋《ひき》の蟻の子供らが、手をひいて、何かひどく笑ひながらやつて来ました。そして俄《には》かに向ふの楢《なら》の木の下を見てびつくりして立ちどまります。
「あつあれなんだらう。あんなとこにまつ白な家ができた」
「家ぢやない山だ」
「昨日はなかつたぞ」
「兵隊さんにきいて見よう」
「よし」
 二疋の蟻は走ります。
「兵隊さん、あすこにあるのなに?」
「何だうるさい、帰れ」
「兵隊さん、ゐねむりしてんだい。あすこにあるのなに?」
「うるさいなあ、どれだい、おや!」
「昨日はあんなものなかつたよ」
「おい、大変だ。おい。おまへたちはこどもだけれども、かういふときには立派にみんなのお役に立つだらうなあ。いゝか。おまへはね、この森を入つて行つてアルキル中佐どのにお目にかゝる。それからおまへはうんと走つて陸地測量部まで行くんだ。そして二人ともかう云ふんだ。北緯二十五度東経六厘の処《ところ》に、目的のわからない大きな工事ができましたとな。二人とも云つてごらん」
「北緯二十五度東経六厘の処に目的のわからない大きな工事ができました」
「さうだ。では早く。そのうち私は決
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