す。一時間に十町とも進みません。
もう童子たちは余り重い上に蠍の手がひどく食い込《こ》んで痛いので、肩や胸が自分のものかどうかもわからなくなりました。
空の野原はきらきら白く光っています。七つの小流れと十の芝原《しばはら》とを過ぎました。
童子たちは頭がぐるぐるしてもう自分が歩いているのか立っているのかわかりませんでした。それでも二人は黙ってやはり一足ずつ進みました。
さっきから六時間もたっています。蠍の家まではまだ一時間半はかかりましょう。もうお日様が西の山にお入りになる所です。
「もう少し急げませんか。私らも、もう一時間半のうちにおうちへ帰らないといけないんだから。けれども苦しいんですか。大変痛みますか。」とポウセ童子が申しました。
「へい。も少しでございます。どうかお慈悲《じひ》でございます。」と蠍が泣きました。
「ええ。も少しです。傷は痛みますか。」とチュンセ童子が肩の骨の砕《くだ》けそうなのをじっとこらえて申しました。
お日様がもうサッサッサッと三遍|厳《おごそ》かにゆらいで西の山にお沈《しず》みになりました。
「もう僕《ぼく》らは帰らないといけない。困ったな。ここ
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