らの人は誰《たれ》か居ませんか。」ポウセ童子が叫びました。天の野原はしんとして返事もありません。
 西の雲はまっかにかがやき蠍の眼《め》も赤く悲しく光りました。光の強い星たちはもう銀の鎧《よろい》を着て歌いながら遠くの空へ現われた様子です。
「一つ星めつけた。長者になあれ。」下で一人の子供がそっちを見上げて叫んでいます。
 チュンセ童子が
「蠍さん。も少しです。急げませんか。疲《つか》れましたか。」と云いました。
 蠍が哀《あわ》れな声で、
「どうもすっかり疲れてしまいました。どうか少しですからお許し下さい。」と云います。
「星さん星さん一つの星で出ぬもんだ。
 千も万もででるもんだ。」
 下で別の子供が叫んでいます。もう西の山はまっ黒です。あちこち星がちらちら現われました。
 チュンセ童子は背中がまがってまるで潰《つぶ》れそうになりながら云いました。
「蠍さん。もう私らは今夜は時間に遅《おく》れました。きっと王様に叱《しか》られます。事によったら流されるかも知れません。けれどもあなたがふだんの所に居なかったらそれこそ大変です。」
 ポウセ童子が
「私はもう疲れて死にそうです。蠍さん。
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