いゝんだ。天竺木綿《てんぢくもめん》、その菓子の包みは置いて行ってもいゝ。雑嚢《ざつなう》や何かもこゝの芝へおろして置いていゝ行かないものもあるだらうから。
「私はこゝで待ってますから。」校長だ。校長は肥《ふと》ってまっ黒にいで立ちたしかにゆっくりみちばたの草、林の前に足を開いて投げ出してゐる。
〔はあ、では一寸行って参ります。〕木の青、木の青、空の雲は今日も甘酸っぱく、足なみのゆれと光の波。足なみのゆれと光の波。
 粘土のみちだ。乾いてゐる。黄色だ。みち。粘土。
 小松と林。林の明暗いろいろの緑。それに生徒はみんな新鮮だ。
 そしてさうだ、向ふの崖《がけ》の黒いのはあれだ、明らかにあの黒曜石の dyke だ。こゝからこんなにはっきり見えるとは思はなかったぞ。
 よしうまい。
〔向ふの崖をごらんなさい。黒くて少し浮き出した柱のやうな岩があるでせう。あれは水成岩の割れ目に押し込んで来た火山岩です。黒曜石です。〕ダイクと云はうかな。いゝや岩脈がいゝ。〔あゝいふのを岩脈といひます。〕わかったかな。
〔わかりましたか。向ふの崖に黒い岩が縦に突き出てゐるでせう。
 あれは水成岩のなかにふき出した
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