です。ちゃんと見えています。立枯病です。」
農民一「はでな、病気よりも何が虫だなぃがべすか。」
爾薩待「虫もいますか。葉にですか。」
農民一「いいえ、根にす、小せぁ虫こぁ居るようだます。」
爾薩待「ああなるほど虫だ。ちゃんと根を食ったあとがある。これは病気と虫と両方です。主に虫の方です。」
農民一「はあ、私もそうだと思ってあんすた。」
爾薩待(汗を拭《ふ》いてやっと安心という風)「ええ、そうですとも、これはもう明らかに虫です。しかも根切虫だということは極めて明白です。つまりこの稲は根切虫の害によって枯れたのですな。」
農民一「はあ、それで、その根切虫、無ぐするになじょにすたらいがべす。」
爾薩待「さうですなあ、虫を殺すとすればやっぱり亜砒酸《あひさん》などが一番いいですな。」
農民一「はあ、どこで売ってるべす。」
爾薩待「いや、それは私のとこが病院ですからな。私のとこにあります。いま上げます。」
農民一「はあ。」
爾薩待(立って薬瓶《くすりびん》をとる)「何反といいましたですか。」
農民一「五畝歩でごあんす。」
爾薩待「五畝歩とするとどれ位でいいかなあ。(しばらく考えてなあにくそという
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