どはなんでもない。もう七人目のやつが来そうなもんだがなあ。」
[#ここから3字下げ]
「今日は。」
「はい。」(農民一 登場)
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して3字下げ]
爾薩待「いや、今日は。私は植物医師の爾薩待です。あなたの陸稲はすっかり枯れたでしょう。」
農民一「はあ。」
爾薩待「それはね、あんまり乾き過ぎたためでもない、あんまり湿り過ぎたためでもない。厚く蒔きすぎたのでもない。まあ一反歩四升ぐらい播いたのでしょう。」
農民一「はあ。」
爾薩待「それでいいのです。また肥料のあまり少ないのでもない。硫安を濃くしてかけたのでもない。肥桶一つへこれ位入れたでしょう。」
農民一「はあ。」
爾薩待「そこでね、それは針金虫というものの害なのです。それをなくするには亜砒酸を水にとかしてかけるのです。」
農民一「はあ、私そうしあんした。」
爾薩待(顔を見て愕《おどろ》く)「おや、あなたはさっきの方ですね。こついは失敬しました。どうでした。」
農民一「どうも、ゆぐなぃよだんすじゃ。かげだれば、稲見でるうぢに赤ぐなってしまたもす。」
爾薩待(あわてる)「いや、そんな筈はあ
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