ろ》の木の影《かげ》がいちめん網《あみ》になって落ちて日光のあたる所には銀の百合《ゆり》が咲いたように見えました。
 すると子狐紺三郎が云いました。
「鹿《しか》の子もよびましょうか。鹿の子はそりゃ笛《ふえ》がうまいんですよ。」
 四郎とかん子とは手を叩いてよろこびました。そこで三人は一緒に叫びました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ、鹿《しか》の子ぁ嫁ぃほしいほしい。」
 すると向うで、
「北風ぴいぴい風三郎、西風どうどう又三郎」と細いいい声がしました。
 狐の子の紺三郎がいかにもばかにしたように、口を尖《とが》らして云いました。
「あれは鹿の子です。あいつは臆病ですからとてもこっちへ来そうにありません。けれどもう一遍《いっぺん》叫んでみましょうか。」
 そこで三人は又叫びました。
「堅雪かんこ、凍み雪しんこ、しかの子ぁ嫁《よめい》ほしい、ほしい。」
 すると今度はずうっと遠くで風の音か笛の声か、又は鹿の子の歌かこんなように聞えました。
「北風ぴいぴい、かんこかんこ
    西風どうどう、どっこどっこ。」
 狐《きつね》が又ひげをひねって云いました。
「雪が柔《やわ》らかになるといけませ
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