もおみやげを戴《いただ》いて済みません。どうかごゆるりとなすって下さい。もうすぐ幻燈もはじまります。私は一寸失礼いたします。」
 紺三郎はお餅を持って向うへ行きました。
 狐の学校生徒は声をそろえて叫びました。
「堅雪かんこ、凍《し》み雪しんこ、硬《かた》いお餅はかったらこ、白いお餅はべったらこ。」
 幕の横に、
「寄贈《きぞう》、お餅沢山、人の四郎氏、人のかん子氏」と大きな札《ふだ》が出ました。狐の生徒は悦《よろこ》んで手をパチパチ叩《たた》きました。
 その時ピーと笛《ふえ》が鳴りました。
 紺三郎がエヘンエヘンとせきばらいをしながら幕の横から出て来て丁寧《ていねい》にお辞儀をしました。みんなはしんとなりました。
「今夜は美しい天気です。お月様はまるで真珠《しんじゅ》のお皿《さら》です。お星さまは野原の露《つゆ》がキラキラ固まったようです。さて只今《ただいま》から幻燈会をやります。みなさんは瞬《またたき》やくしゃみをしないで目をまんまろに開いて見ていて下さい。
 それから今夜は大切な二人のお客さまがありますからどなたも静かにしないといけません。決してそっちの方へ栗の皮を投げたりして
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