度限り特にご内密にねがひませんでせうか。」
 署長はもう勝ったと思った。
「いやお語《ことば》で痛み入ります。私も職務上いろいろいたしましたがお立場はよくわかって居ります。しかしどうも事こゝに至れば到底内密といふことはでき兼ねる次第です。もう談《はなし》がすっかりひろがって居りますからどうしても二三人の犠牲者はいたし方ありますまい。尤《もっと》も私に関するさまざまのことはこれは決して公にいたしません。まあ罰金だけ納めて下さってそれでいゝやうな訳です。」
「それがそのどうも私どもはじめ名前を出したくないので。」
 この時だ、表が俄《にはか》にやかましくなって烈《はげ》しい叫声や組討ちの音が起った。まるでもう嵐のやうだった。
「署長署長」誰《たれ》かが叫んだ。署長はばっと立ちあがった。
「おゝ、こゝに居るぞよくやったよくやった。シラトリ、こゝに居るぞ。」
 すぐ二三人が室《へや》の戸をけやぶって入って来た。
「署長、ご健勝で。もうみんな捕縛しました。」とシラトリ属が泣いてかけて来た。
「よくわかったなあ、警察の方もたのんだか。」
「えゝ総動員です。二十人捕縛してあります。この方は。」
「名
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