に充《み》ちて来たらしく一ぺんに畳をはね越えておもてに飛び出し大股《おほまた》に通りをまがった。実にその晩の夜の十時すぎに勇敢な献身的なこの署長は町の安宿へ行って一晩とめて呉れと云った。そしたらまじめにお湯はどうかとか夕飯はいらないかとか宿屋では聞いた。署長はもうすっかり占めたと思ったのだ。そして次の朝早く署長はユグチュユモトの村へ向った。
村の入口に来てさっそく署長はあの小売酒屋へ行った。
「えゝ伺ひますが、この村の椎蕈《しひたけ》山はどちらでせうか。」
「椎蕈山かね。おまへさんは買付けに来たのかい。」
「へえ、さうです。」
「そんなら組合へ行ったらいゝだらう。」
「組合はどちらでございませう。」
「こっから十町ばかりこのみちをまっすぐに行くとね学校がある、」
知ってるとも、そこでおれが講演までしてひどい目にあってるぢゃないか、署長は腹の底で思った。
「その学校の向ひに産業組合事務所って看板がかけてあるからそこへ行って談《はな》したらいゝだらう。」
「さうですか。どうもありがたうございました。お蔭《かげ》さまでございます。」署長はまるで飛ぶやうにおもてに出てまた戻って来た。
「ど
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