ちは密造罪と職務執行妨害罪と殺人罪で一人残らず検挙されるからさう思へ。」
 社長も鑑査役も実に青くなってしまった。しばらくみんなしいんとした。
 こゝだと署長が考へた。
「さあ、おれを殺すなら殺せ、官吏が公務のために倒れることはもう当然だ。」署長は大へんいゝ気持がした。といきなりうしろから一つがぁんとやられた。又かと思ひながら署長が倒れたらみんな一ぺんに殺気立った。
「木へ吊《つ》るせ吊るせ。なあに証拠だなんてまだ挙がってる筈《はず》はない。こいつ一人片付ければもう大丈夫だ。樺花《かばはな》の炭釜《すみがま》に入れちまへ。」たちまち署長は松の木へつるしあげられてしまった。村会議員が出て云った。
「この野郎、ひとの家でご馳走《ちそう》になったのも忘れてづうづうしい野郎だ。ゆぶしをかけるか。」
「野蛮なことをするな。」署長が吊られて苦しがってばたばたしながら云った。
「とにかく善後策を講じようぢゃないか。まあ中で相談するとしよう。」村長が云った。
 みんなは中へはひった。署長は木の上で気が遠くなってしまった。

      五、署長のかん禁

 しばらくたって署長は自分があの奥の室《へや》の中に入れられてゐるのを気がついた。頭には冷たい巾《きれ》がのせてあったし毛布もかけてあった。いちばんあとから小屋を出た男が虔《つつま》しく番をしながら看病してゐた。おもてではがやがやみんなが談《はな》してゐた。何でも善後策を協議してゐるか酒盛りをやってゐるらしかった。署長がからだをうごかしたらすぐその若者が近くへ寄って模様を見た。それから戸をあけてそしても一つ戸をあけて外の大きな室に出て行った。と思ふと名誉村長が入って来た。茶いろの洋服を着てゐた。(そして見るとおれは二日か三日寝てゐたんだな。)署長は考へた。名誉村長は座って恭しく礼をして云った。
「署長さん。先日はどうも飛んだ乱暴をいたしました。
 実は前後の見境ひもなくあんなことをいたしましてお申し訳けございません。実は私どもの方でもあなたの方のお手入があんまり厳しいためつい会社組織にしてこんなことまでいたしましたやうな訳で誠に面目次第もございません。就《つ》きましていかゞでございませう。私どもの会社ももうかっきり今日ぎり解散いたしまして酒は全部私の名義でつくったとして税金も納めます。あなたはお宅まで自働車でお送りいたしますがこの
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