びました。けれどもそれは子どもにはただ風の声ときこえ、そのかたちは眼に見えなかったのです。
「うつむけに倒れておいで。ひゅう。動いちゃいけない。じきやむからけっとをかぶって倒れておいで。」雪わらすはかけ戻《もど》りながら又《また》叫びました。子どもはやっぱり起きあがろうとしてもがいていました。
「倒れておいで、ひゅう、だまってうつむけに倒れておいで、今日はそんなに寒くないんだから凍《こご》えやしない。」
雪童子は、も一ど走り抜けながら叫びました。子どもは口をびくびくまげて泣きながらまた起きあがろうとしました。
「倒れているんだよ。だめだねえ。」雪童子は向うからわざとひどくつきあたって子どもを倒しました。
「ひゅう、もっとしっかりやっておくれ、なまけちゃいけない。さあ、ひゅう」
雪婆んごがやってきました。その裂けたように紫《むらさき》な口も尖った歯もぼんやり見えました。
「おや、おかしな子がいるね、そうそう、こっちへとっておしまい。水仙月の四日だもの、一人や二人とったっていいんだよ。」
「ええ、そうです。さあ、死んでしまえ。」雪童子はわざとひどくぶっつかりながらまたそっと云いました。
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